型物への挑戦
商品番号 | tk012102 |
商品名 | fin ver.1(溝の数が一番多いもの) |
価格 | fin ver.1:¥3,564(税込) |
限定数 | - |
サイズ | fin ver.1(溝の数が一番多いもの) |
素材 | 磁器 |
支払方法 | 銀行振込・クレジットカード決済(PayPal) |
送料 | |
納期 | 4週間程度 |
備考 | この商品は返品不可とさせていただきます。 |
バイヤー | mikayama |
飛びぬけて後者
モノを作る人には2つのタイプがいると思います。
どんどんどんどんテンポよく生み出し続ける人。
長い時間をかけて一つのものを作っていく人。
もちろんどんな作品にも裏側には膨大な時間が隠されているし、それができる瞬間の機微みたいなものがあることも理解しています。ただ、やっぱり上記の2つのタイプに分かれると思うんです。作品を作る上でのスタンスみたいなものかもしれません。
さて。
このコップを作った飛松陶器の飛松さん。29歳。
明らかに後者の方です。明らかというか、飛びぬけて後者です。
実は、飛松さんの作品はお店で扱われるのは今回が初めてです。他のお店では現在のところ取り扱いがありません。でも、これだけの作品を作られる方なので、当然にお店からの引き合いはあります。「この器をうちのお店で扱いたい」と。
でも、断ってきたらしいんです。
なぜか?自分がまだ納得がいっていなかったから。
いや、理屈は分かるんですよ。
作家さんはそうあるべきだと思うし。
ただ、体現してる若い人ってそんなにはいない。というか、できないんですよね。お金の魅力はどうしてもあるし、そもそも若いうちはお金は足りないから。
で、だいたいの作家さんは若いうちにがんばってがんばって作り続けて、だけど売るために同じものを繰り返し作ることになったりして、疲れて、だけどお金を得て、それを元手にちょっと余裕のある生活のペースを自分で考える。みたいなケースが多いと思うんです。別にお金の誘惑に負けた、とかそういう話ではなくて一般的にこういうものだと。
ただ、まあ時にその普通の道程から意識する訳でもなく外れてしまう人がいるんですよね。それが今回の飛松さん。若いのになんだか仙人の風格があります。
いや、無いか。
普通の兄ちゃんです。
だけど、お金ということをそれほど気にするわけでもなく、ただ自分のペースを保ち、一つのかたちを作り続けて、ついにお店に出してもよいと思えるクオリティに至ったというわけです。
ちょっとずつ大きさの違う3つのコップ
fin ver.1 一番溝の多いタイプ
fin ver.2 真ん中のタイプ
fin ver.3 一番溝の少ないタイプ
デザイナーと職人
あ。そうそう。
飛松さんって、もともと東京の美術大学出身なんです。工芸科陶専攻。
もちろん近代のプロダクトデザインについても勉強している。そういうバックグラウンドの中で面白いことを言っていたんです。
「最近よくある産地とデザイナーのコラボレーションってなんかこうグッと来ないものが多いでしょ。あれは当たり前なんですよ。デザイナーと作り手が本当に細かい部分で分かりあうことができないから。だから、僕はデザイナーであり職人でいたいんですよね。」
多分、僕が飛松さんの作品を好きになったのもこの部分の延長線。
例えば、このコップの外側の細かい溝があるじゃないですか。これはとても細かく滑らかにできています。これを飛松さんが納得のいくレベルで実現するために型を何度も作っているんです。
型物の磁器といっても型ができれば何でも作れるという世界ではなくて、例えばこの溝を作るために器自体が分厚くなっても意味がないし、薄くしたらすぐ壊れてしまうし。やはりいろいろな不具合が生じるんですよね。
しかも、飛松さんの志向するデザインは感性的なものではなくて、理知的なデザインだからなおさら大変。単純に精度が出てないと、かっこ悪い器になってしまう。
じゃあ、どうやって解決するかというと試作品との苦闘しかないんですよね。
それで結果的に3年かかってしまったと。
それとfin cyocoセット。波がちょっとずつアニメのように伸びていきます。
コップの底に高台というものがありますが
その高台が側面の溝と一体になっています
なんか水の波紋ぽいです
型物(鋳込み)の磁器の作り方
型物の磁器って言われても、普通は分からないですよね?
型物の磁器って、まず原型を作るところからスタートします。飛松さんの場合は凸凹したコップの外側部分の原型です。次にその原型の石膏型を作ります。
それでできた石膏型に普通の粘土ではなくて、粘土を水で溶いたドロッとした「泥(でい)しょう」というものを流し込みます。そうすると、不思議なことが起こるんです。
石膏って吸水性が高いのですが、泥しょうの中の水分を吸っていくんですね。で、全体的に泥しょうの水分が減るのかというとそうではなくて、石膏の内側に触れている部分だけに水分を吸われた泥しょうが付着して皮膜層を作るんです。
石膏は水を吸い続けるので、時間をかければ厚い皮膜ができますし、時間を少なくすれば薄い皮膜ができます。
しかも皮膜の厚みは石膏の乾燥の度合いにも左右されます。つまり季節ごとの湿度変化による吸水率の変動も起きます。例えば同じ5分間泥しょうを入れて放置したとしても、夏か冬かによってできる皮膜の厚みは変わります。なんか蕎麦屋さんみたいです。
そうやって、ある程度の皮膜層ができた頃合を見計らって余分な泥しょうを外に流して、型ごとその泥しょう皮膜を乾燥させます。乾燥させると泥しょうは収縮するので、石膏と皮膜の間に隙間ができてきて、やっと外せるようになり、その出来上がった皮膜(器)を素焼き、本焼きすることでやっと完成となります。
と言うのが普通の型物の磁器の作り方なのですが、飛松さんの器の場合、外側にfin(ヒダ)の部分があってそのスパンや深さによって、うまく取り出せるかどうか(引っかかるとひびが入ったりしてしまいます。)が決定してきます。
つまりデザイン的なことを重視しすぎても制作工程で止まってしまうし、かといって制作のことだけ考えても面白いモノはできないということで。
そこを、なんとか埋めていく作業が上記のデザイナーと職人の間の作業となるわけです。
まず石膏型に泥しょうを流し込みます
数分待ちます
余った泥しょうを捨てます
そうして器のもとになる皮膜層ができます
吉祥寺仙人
さてさて。
この器自体は、全然その3年がにおわないスマートなデザインです。
でもやっていることは少しクレイジー。
作っている人はとてもクレイジー。
想像しながら使えると、なんか面白い気がします。
あ。そういえば仙人の飛松さん。
実は吉祥寺で工房を構えています。
山の中だと思ったでしょ。全然違って吉祥寺徒歩5分。
(不動産屋的にはかなり興味深い建物です。どうも戦前に建築されたらしいです。)
なんかやっぱり面白いバランスの人なんだよなぁ。
飛松さんの作品は他に下記の商品を取り扱っております。
> 計算ずくの不安定
外側の溝が反転して内側に出ています
この内側の溝を出すためにも薄く作らないといけないんです
仙人の仕事場、なぜか脇に実験道具あります
入口の木が目印です